前妻の子も、後妻の子も、それぞれに応分の財産を分けてやりたいと思うのが親心ですが、介護で苦労をかけた等の理由で「後妻(または後妻の子)に財産を遺したい。」という実情のお客様も少なくありません。

問題なのは、

財産に自宅はあるが、現金が少ない場合です。

なぜなら、現金があれば支払ってすみますが、不動産の場合、分割することができません。

そのため、相続時に前妻の子とのトラブルを避けたいというご事情から、

自宅を後妻へ生前贈与したい(名義変更)

というご相談を多くいただきます。しかしながら、これは費用がかかる等のデメリットもあるため、慎重に判断する必要があります。

前妻の子は相続人になる

民法では、誰が、どのくらい、遺産を相続するのかを定めています。前妻の子も、後妻の子も、

  • 同じ相続順位
  • 同じ法定相続分
  • 同じ遺留分請求権

を持ちます。

例えば、前妻の子1人後妻の子1人がいた場合、遺産を分ける割合は次の通りに決められています。

法定相続分

これを現金で考えると、

法定相続分(現金で換算すると)

となります。

しかし、土地や家などの「分けられない財産」は、相続手続きの際にトラブルになりやすい資産と言えます。

前妻の子には遺留分がある

たとえば、遺言書に「全財産を○○へ遺す」と書いたとしても、相続人には、遺留分という最低限もらえる財産があって、これを侵害することはできません。

実際に、どのくらいの割合で認められているのでしょうか。

遺留分

これを現金で考えると、

慰留分(現金で換算すると)

生前贈与のデメリットも考える

生前贈与には費用がかかる

不動産の生前贈与を検討する場合、税金などの費用を把握しておくことが重要です。実際に、どのくらいの費用がかかるのでしょうか。

【生前贈与にかかる費用】

  • 登録免許税
  • 不動産取得税
  • 贈与税
  • 専門家へ依頼した場合の報酬 など

○ 登録免許税について
名義変更の登記をする場合に、国へ支払う税金です。
生前贈与は2%、相続時であれば0.4%しかかかりません。

例)課税評価額 2000万円の自宅
生前贈与  400,000円
相続      80,000円

○ 不動産取得税について
土地や建物を買ったり、贈与された場合に、都道府県へ支払う税金です。
生前贈与は3〜4%、相続時であれば非課税(0円)となります。

○ 贈与税について
自分以外の人から財産を譲り受けた場合に、もらった方が国へ支払う税金です。
贈与を受けた価額が110万円を超えると課税されます。

このように、生きているうちに自宅を譲り渡すには、多くの費用がかかります。

相続時であれば、基礎控除額も大きく、かかる税率も低く設定されているため、費用が安くすみます。

生前にできる対策

夫が亡き後、遺された家族が困ることのないように、生前にできることは主に2つあります。

1. おしどり贈与を活用する

成年後見制度イメージ

結婚して20年以上の夫婦が利用できるおしどり贈与(贈与税の配偶者控除)という特例があり、

 

結婚して20年以上の夫婦が

自宅 または 自宅を購入するためのお金

を贈与した場合、2000万円まで贈与税がかかりません。

 

注意点は、贈与税はかかりませんが、登録免許税、不動産取得税はかかってきます。

民法改正により、おしどり贈与を利用する夫婦が増えた

例えば、自宅2000万円、現金1000万円の合計3000万円の資産があった場合、

民法改正前では、夫が生前に後妻へ贈与した自宅は、

生前に財産の一部を先にもらった(特別受益)

ということになり、

相続人間の公平性を保つために、もらった自宅を相続時財産に持ち戻し、その合計した財産を相続人みんなで分割しなければなりませんでした。

これでは20年連れ添った妻が遺産分割でもらえる財産はかなり少なく、老後の生活に不安が残る制度でした。

特別受益の解釈(民法改正前)
2000万円の自宅を贈与した場合

しかし、2019年民法が改正され、おしどり贈与を使って贈与された自宅の持ち戻しが免除されることになりました。

これにより、妻は安心して住み慣れた自宅、地域で暮らしていくことができるようになりました。

特別受益の解釈(民法改正後)

相続時に、自宅しか財産がない場合、自宅を売却し、その現金を相続人で分配しなければならない場合があります(換価分割)。

しかし、おしどり贈与によって、すでに後妻の名義に変わっている不動産は、故人の財産ではないため、自宅を売却する必要がありません。

おしどり贈与は費用がかかりますが、ケースによっては有効な制度です。

2. 遺言をつくる

遺言書

遺言書がない場合」と「遺言書がある場合」とでは、遺された家族の負担は大きく違ってきます。

遺言書がない場合

まず、相続人全員で話し合い、遺産の分け方を決める必要があります。前妻の子の電話番号も知らないのであれば、まずはそこへ手紙を出すところからスタートしなければなりません。遺産分割協議書は、相続人全員でつくったものでなければ無効となります。賛成してくれない相続人が一人でもいれば遺産分割はまとまりづらく、時間がかかることが多いです。

遺言書がある場合

原則として、遺言書の内容にしたがって遺産を分けていくことになります。相続人全員でする遺産分割協議も必要ありません。遺言書があれば、自宅の名義変更、預貯金の解約などもできます。

ただし、自筆証書遺言(自分で紙に書き記す遺言書)の場合、家庭裁判所の検認が必要となり、すべての相続人へ通知がいきます。したがって、前妻の子も検認のときにいらっしゃいますので、そのことが遺された家族にとっては負担になることもあります。

自筆証書遺言を法務局で保管した場合は検認は必要ありませんが、遺言者が死亡した後、相続人が遺言書の閲覧等をした場合、保管官がすべての相続人へ遺言書が法務局に保管されている旨を通知します。これにより、すべての相続人に遺言書が保管されていることが伝わることとなります。

① 自筆証書遺言

自分で紙に書き記す遺言書のことです。遺言者本人が、全文(財産目録以外)を手書きします。

簡単に作成でき、費用もかかりませんが、デメリットもあります。

デメリット

  • 相続人に発見されないことがある
  • 改ざんされる恐れがある
  • 形式不備により遺言が無効になる恐れがある
  • 遺言を書いた当時、遺言者本人に意思能力がなかったとして争われやすい

自宅で保管する場合
自宅で保管した遺言書は検認が必要になります。裁判所から、すべての相続人に対し、検認期日(検認を行う日)の通知をします。検認の済んでいない遺言書は、預貯金の解約や不動産名義変更等をすることができません。

法務局で保管する場合
令和2年7月より自筆遺言証書保管制度が始まり、法務局にて遺言書を保管することが可能となりました。法務局で保管した遺言書は検認は必要はありませんが、相続人等が遺言書情報証明書の交付を受けると、保管官がすべての相続人に対し、遺言書を保管している旨を通知します。

② 公正証書遺言

公証人関与にて作成される遺言です。公証人 及び 証人2名が立ち会いの下、遺言者に、遺言の内容や意志を確認します。信用度が高く、裁判で争われても有力な証拠として扱われます。検認は必要ありません。

当事務所では公正証書遺言をオススメしています。

料金について

所有権移転登記

  報酬
所有権移転登記(おしどり贈与) 55,000〜

※登録免許税、不動産取得税等、実費かかります

遺言書作成

  報酬
自筆証書遺言のチェック(添削) 16,500〜
自筆証書遺言(文案作成) 22,000〜
公正証書遺言作成サポート 66,000〜
証人立会 1名につき 11,000

※遺産分割の内容、相続人の数、財産額など難易度により報酬が変わりますので、事前にお見積りいたします

公証人手数料

公正証書遺言を作成される場合、公証人へ支払う手数料です。手数料は、法律により決められており、ご自身で手続きしても同じくかかります。

財産の金額 手数料
100万円まで 5,000円
200万円まで 7,000円
500万円まで 11,000円
1000万円まで 17,000円
3000万円まで 23,000円
5000万円まで 29,000円
1億円まで 43,000円

※実費などが別途かかります
※合計が1億円未満の場合は、11,000円加算されます

例)自宅を妻である○○に相続させる場合(課税評価額2000万円)

公証人手数料 23,000
公証人手数料
財産が1億円以下の加算
11,000
報酬 66,000
合計 100,000

※実費が別途かかります

また、先に申し上げた通り、前妻の子の遺留分(最低限もらえる財産)を侵害することはできません。

しかし、遺留分にも時効があり、前妻の子が被相続人(お父さん)が亡くなったことを知らなくても、被相続人の死亡から10年経つと時効を迎え、遺留分は消滅します。

まとめ

ご相談する内容は、相談者様ひとりひとり事情も違いますし、おかれている立場も異なります。そのため、生前贈与に精通している司法書士を選ぶことは必須ですが、話を親身になって聞いてくれ、相談者からも質問がしやすい司法書士を選ぶことをお勧めします。法律相談は、専門用語も多いので、わかやすく噛み砕いて説明してくれることも重要です。

無料相談をやっている事務所は多いので、まずはひとりで悩まずに相談してみましょう。

藤本清美

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